授業短信平成30年10月20日平原誠之先生 | 紀州くちくまの熱中小学校

平成30年10月20日（土）【1時間目】

秋の芸術鑑賞会『平原誠之スペシャル・ピアノ・コンサート』

平原誠之先生（作曲家／ピアニスト／日本・エルサルバドル音楽親善大使／一般社団法人日本作編曲家協会会員）教科：音楽

ピアノを習っている人なら誰でも、プロのピアニストがどんな風に曲を演奏するか気になるはずです。指を立てて弾くのか、それとも鍵盤に触れるようにして弾くのか、曲への感情の込め方などなど。普段は舞台を見上げて鑑賞するピアノコンサートが、ピアニストと同じ目線で、しかも解説付きで生の演奏を楽しめる。第二期の始まりにふさわしく楽しい第１回目の授業となりました。

生演奏つきクラシック音楽史

私は、演奏家として音楽の力、音楽の素晴らしさを伝える活動を続けています。それと同時に作曲活動も行っています。
このようにオーディエンスの皆さんの眼の前で講演を行いながらピアノ演奏をすることは例がなく、初めての体験です。

最初にみなさんがよく耳にしたことのある曲を演奏しながら、ざっとクラシック音楽の歴史を振り返って見たいと思います。クラシック音楽は大きくは５つの時代に分類されます。「バロック」「古典派」「ロマン派」「近代」「現代」です。1600年代から始まったバロック音楽の代表的な作曲家はバッハ、ヴィヴァルディ、スカルラッティが挙げられます。この時代に作曲された音楽はほとんどが宗教音楽で伴奏がなく、混声合唱のように複数のパートが旋律を奏でる多声音楽でした。

1700年代、「貴族のための音楽」として発展した古典派音楽では、モーツァルト、ハイドン、ベートーベンが有名です。曲調はきらびやかで華やか。主旋律と伴奏という形式が出てきたのも、この時代からです。1800年から1900年初頭はロマン派音楽が花開きました。恋心や愛をテーマに「自分のため」に曲が作られるようになります。ショパンのピアノ曲のようにロマンティックな曲調が多いのものこの時代の特徴です。

1800年後半から1900年初頭は、近代音楽と呼ばれます。「月の光」を作曲したドビュッシーを代表に、「絵画や情景から着想を得て音の響きを楽しむ」音楽が多く世に出ました。またハチャトリアンのように不協和音を使うことで自己主張が強く、個性的な音楽が出てきたのもこの時代からです。

「無調音楽」と呼ばれる現代音楽はミステリアスで、サスペンスドラマでよく使われます。現在の国際コンクールの作曲部門の応募作品は無調音楽が多いです。一方で、アルゼンチン出身のピアソラは３・３・２の独自のリズムを生み出し、自国への愛を音楽に綴りました。日本人にはこのリズムがないので、弾きこなすのが非常に難しかったのを覚えています。

主な演奏曲（アレンジ）
小フーガト短調　バッハ
トルコ行進曲　モーツァルト
ショパン　ノクターン20番
月の光　ドビュッシー
剣の舞　ハチャトリアン
リベルタンゴ　ピアソラ

デジタル時代の音楽家

今は音楽もコンピューター化されていて、楽譜も全てデジタルで書き起こしされています。その一方で、実はコンピューターが私は大の苦手。今までは楽譜は手書きで起こしていましたが、浅田次郎原作の、映画「輪違屋糸里　京女たちの幕末」の作曲依頼をいただいたことをきっかけに、オーケストレーションをデジタルで行うことに決めました。

パソコンのモニター４画面、キーボード４台を準備して、使い方はネットで調べたり、仲間に尋ねたりして、１カ月でマスターしました。限られた時間の中で依頼された曲数を作り上げるために時にはピアノの下で仮眠をとったり、また、役者さんの動きに合わせてコンマ1秒単位で曲を作ったりと、映画音楽独特の困難もありましたが、無事38曲を１カ月半で作り終えることができました。

人と人との出会いからチャンスが生まれる

もともと役者志望だった私は、８歳から始めたピアノは趣味で続けていくつもりでした。阪神・淡路大震災復興記念クラシックフェステイバル音楽コンクールの作曲部門への参加をきっかけに見出していただき、今までたくさんの方からご縁をいただきながら、小さい頃からの夢だった映画音楽を手がけることができました。まさに人と人との出会いが、私を後押ししてくださったのだと感謝しています。

学校は中学校までなので、「クラシック界の異端児」と言われることがあります。アメリカでは学歴はまったく関係がなく、音楽学校に行っていなかったことがむしろ「面白い」と興味を持ってもらえるきっかけになっています。今までに経験したことがないことでも、自分の壁を作らず、諦めず、言葉よりもむしろ体を動かして死にものぐるいでやってきたことが、やがて「何があってもやっていける」という自信に繋がっていくと思っています。